新潟食糧大学学長 コラム

当コーナーは、当協会筆頭理事である渡辺好明氏が学長を務める「新潟食料農業大学」のコラムを掲載しています。

過去の記事はこちらから

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【第20回】ストレスの予防法、解消法

 

今回も、<閑話休題>で、いろいろな「ストレス予防法、解消法」を紹介しましょう。

 

 

新入生の皆さん、それぞれにキャンパス・ライフを楽しんでいらっしゃることと思いますが、

学習のこと、生活のことなどで、いままでとは違ったストレスも多いことでしょう。

そんなとき、どうすればよいのか、先人たちの実例に触れていきます。

 

ストレスを楽しむ

これは別格で、天才でなければできない技です。

読売ジャイアンツの名誉監督「長嶋茂雄」さんなどは、ストレスがかかると実にうれしそうな顔をしました。

彼の名言が残っています。「ストレスを楽しまなくちゃあ」

闘将といわれた「星野仙一」さんも同じタイプで、「プレッシャ-来い、来い」だそうです。

 

ストレスを有効利用する

こちらは、理知的な考え方・行動です。悪いストレスをよい行動のきっかけに転換・利用する。

ストレスが来ることは当然の前提として、どんなストレスかを冷静に分析し、

体や心の反応を整理、理解した上で、有効利用する。

女性ゴルファ-の名手「ベッツイ・キング」は、<making stress work for you >といっています。

これもなかなか難しい対処法だと思います。

 

次のストレスに目を向けて前のストレスを忘れる

小泉純一郎元総理の対処法です。

かつて、率直に「山のようなストレスの多さにどう対処していらっしゃいますか?」とお尋ねしたところ

「新しいストレスがやって来て、前のストレスを他の人にバトンタッチすればいい、貯めこむから悩むので、次々に来るということは、前のものはやがて忘れるということだ」

とお答えがありました。まあ、これも、大人物でないとなかなか難しそうですね。

 

タメ息は最良のストレス回避策

さて、もっとも身近な方法は、心療内科のお医者さんの解説によるものですが

これは、妙に納得してしまった「呼吸」による対処方法です。

<息を一つ深く吸って、大きくゆっくり二つ吐き出す>その繰り返しで気持ちが落ち着く、

これなら、誰にでもできそうですね。

 

体と心のシグナルを見逃すな

体を使う、ウオ-キングなども解消策としてよさそうですが

<ゆっくり歩き>では、あらぬことを考えてしまいますから、やるなら「速歩」に限ります。

そして、ストレスの限界が近づきつつあるという心と体のシグナルは必ずあります。

そのときは、直ちに専門家に相談しましょう。

私事になりますが、猛烈ないストレスを抱えた生活の中、速歩の途中で、

完全に足が止まった経験があります。ふと左隣を見ると、そこは「病院」でした。

ウソのような本当の話で、すぐにそこへ飛び込んだことはいうまでもありません。

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【第19回】英語こぼれ話 その1

 

 

今回は、ちょっと<閑話休題>で、海外旅行や英語での失敗談を紹介しましょう。

 

 

Are you OK ?

日本人は、ちょっとした転倒や怪我のときに「大丈夫ですか?」と声をかけられると

ついなんとなく「大丈夫、大丈夫」と答える傾向がありますが、

どうやら欧米人の反応は違うようです。

これはロスアンゼルスのみやげ物屋のフロア-での経験ですが

転んだ方に「Are you OK ?」と気遣ったところ、すかさず「No I am not !」と切り返され

とても違和感と驚きを覚えたことがありました。やせ我慢は禁物です。

 

How are you ?

日本のある大学で、英語の試験のときのこと、解答に苦しんでいる学生に

気の毒がった試験官が「How are you ?」と尋ねると「I’m fine thank you, and you ?」と

英会話学校でのパタ-ンどおりの返事があって、試験官はビックリしたそうです。

語学には、テクニックより、実態・内容の裏打ちが大事だということです。

 

Bourbon on the rockS , double shotS !

英国ロンドンの下町なまりの英語を<コックニ->といいます。

オ-ストラリア英語がその典型で、paperは<パイパ->、dayは<ダイ>、

makeが<マイク>、cakeは<カイク>と発音され、このような“なまり”は

オ-ストラリア、ニュ-ジ-ランドだけではなく、アメリカ南部でもときどき耳にすることがあります。

オクラホマの南・ライトシテイでのことですが、レストラン隣のバ-から

アルコ-ルドリンクの注文を取りに来た女性の英語がこのなまりで

「オ-カイ?オ-カイ?」(OK? OK?)の連発です。

ちょっと、いたずら心が出て、「バ-ボンのオンザ・ロックでダブルだ。オ-カイ?」 と冷やかしたところ、

<オンザ・ロックス、ダボ-・ショッッツ>と自身の英語を複数形に修正して切り返されました。

くれぐれも、生半可な知識で他人を冷やかしてはいけませんね。

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【第18回】飛騨の鰤(ブリ)街道

 

能登、越中から「飛騨ブリ」へ

 

冬の富山湾、とくに氷見の定置網で採れたブリは、能登ブリ・越中ブリと称し、

古くから京都、大阪で珍重されてきました。

いまでは新潟・佐渡の真野湾のものも「佐渡ブリ」として有名です。

越中ブリは、1670年代(寛文のころ)から、塩ブリとして飛騨の高山にも送られ

通称も「飛騨ブリ」と名前が変わります。

その後、さらに、標高1672mの野麦峠を越えて松本や木曽、伊那地方にも届けられます。

松本では、1尾の値段が浜値の4倍、コメ1俵(kg)相当(15,000円ほど)にもなっていたそうです。

 

鰤街道

 

越中から飛騨高山までのル-トは、まず、現在の高山本線沿いに南下するのですが、

途中、「猪谷」「今村峠」の間は、東西2本に分かれ、

東は越中東街道(神岡鉄道沿い)を運ばれました。

塩と同様、歩荷(ぼっか)に背負われて17日程の旅であったらしいのです。

「塩の道」からの想像なのですが、険しい<富山湾~糸魚川→塩の道→大町→松本>のル-トも

あったのではないでしょうか。ただ残念ながら、記録は見当たりません。

なお、小浜(福井)から京都へ夜行特急便で70km、鯖(サバ)を届ける若狭街道には、

江戸時代から「鯖街道」の愛称がありました。

 

各地の年取り魚

第16回のコラムでもお話ししましたが、日本各地には「年取り魚」があり

飛騨地方には、いまでも正月に塩ブリを「年取り魚」として食べる習慣があります。

兵庫県在勤の当時を思い出しましたが、年末になると多くの人々が

明石の「魚の棚」(小売市場)へ出かけて塩ブリを購入する姿が見られました。

塩ブリなので保存は利くし、いろいろな正月料理に使われます。

東京なら御徒町「アメ横」の歳末風景と同じでした。

 

NAFUの学生同士で自分たちの地元の食文化を共有する中で

新しいアイディアが出てくるかもしれませんね。

 

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【特別版】新潟食料農業大学の開学に寄せて

 

いよいよ、「新潟食料農業大学」のスタ-トです。

意欲と好奇心に満ち溢れた若者たちが集い、この4月7日には新大学の第1回入学式が挙行されます。

 

いま、日本の「食」の市場は、年間80兆円、いずれは100兆円も目指せる巨大な経済セクターです。

消費者の期待に応えた「マ-ケット・イン」、農場と食卓を切れ目なくつなぐ「フ-ド・チェ-ン」、

くらしと地域に役立つ「実学」を学ぶのが最大の目標です。

 

建学の精神は、「自由」「多様」「創造」です。これらは、過去のしがらみにとらわれず

自己規律に基づく「自由」、他者の考えや行動を尊重する「多様」

好奇心に裏打ちされた「創造」を意味しています。

 

ここでは、習う・覚えるも大事ですが、積極的に質問し、提案する力を持った学生を育てていきます。

教員たちも、きっとそれに応え「面白いね、一緒に考えてみよう」と受けてくれることでしょう。

 

ここでの教育・研究を通じて、将来は、「食の総合大学」へ発展し、

地域における「知の拠点」としての役割を果たすことが期待されているのです。

 

メインキャンパスのある胎内市は、東に雄大な飯豊山脈を望み

山、森林、河川、海、田畑と、変化に富んで風光明媚な<花と緑の田園地域>です。

また、ビジネスを学ぶ新潟キャンパスは、大消費地にも近く

多くの食品産業が集積している好立地条件にあります。

 

恵まれたこの2キャンパスで、学生たちは生産、加工、輸送、販売、調理、サ-ビスを一連のものとして学び

消費と生産、都市と農村は別々ではない、対立するものでもないことを理解していきます。

300年近くも続く地域の市(三八市)にもグル-プで出店し、地域の人々からは歴史と暮らし、

文化・伝統などを勉強していきます。

消費者が求めるものを農場が生産し、都市が農村を支える<相互の理解と融合>を重んじる

教育・研究でありたいと考えています。

そして、施設も実習の場も理想的なものが整備されました。

 

学生たちの憩いの場「学生ラウンジ」の6階から日本海に沈む夕日を眺めるとき

日本という美しい国に住むことにみな感激を新たにすることでしょう。

 

「そもそも天下に道はない、人が歩いて道ができる」、

世界のフ-ド・チェ-ンをけん引するフロント・ランナ-の高等教育機関

「フ-ド・バレ-新潟」に向かって邁進します。

 

 

 

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【第17回】食の東西②

 

お正月の雑煮 「お雑煮」の違いを一般的に

西では、①丸もち(茹でる)、②白味噌仕立て、③昆布ダシ、④具も賑やか、

これに対し東では、①角もち(焼く)、②醤油のすまし汁仕立て、

③ダシはかつおダシ、④具は比較的シンプルです。

しかし、関西や北陸、山陰にも、小豆汁や赤味噌仕立ての地域があり、もちの上に茹で小豆をトッピングする、

「もちが餡餅」など地域によって多様です。

最近では、面倒な丸もちが、加工しやすい角もちに取って代わられつつあるようにも見えます。

 

ダシの違いは何となく納得できます。北海道の昆布は、北前船で日本海を経由して北陸、関西に運ばれ、

かつおは、黒潮に乗って太平洋を上下する回遊特性が背景にあるからです。

 

ブリとカブの飯寿司

北陸の食文化に「かぶら寿司」(熟成ブリの切り身を塩漬けしたカブに挟み米麹で発酵させたもの)があります。魚、野菜と塩・米麹のナレ寿司は各地に見られますし、人々は、どこへ移り住んでも、

ふるさとの料理に近いものをと工夫をしますから、素材も、北海道では「鮭とキャベツ」、

秋田では「ハタハタとキャベツ」に代わります。

「麹」は、本来「糀」と書き、新潟市の古町にも「糀屋」の看板がありますね。

 

おでんと関東炊き

「おでん」にも、ダシ、タネ(種)、薬味には東西(中)の違いがあり

タネが、牛すじ、タコなどの関西風(大阪おでん)、魚の練りものや「ちくわぶ」を入れた関東風

それに、赤味噌ダレ、かつおダシと八丁味噌の甘めの名古屋おでんに分かれます。

東京の平河天満宮近くにある「おでんや」では、関東風、名古屋風、関西風と三種類の鍋があって

ダシ、タネ、薬味も異なるのですが、「ご当地おでん」を求めてにぎわいます。

農水省の機関誌「aff」には、このほか、「青森おでん」「静岡おでん」「姫路おでん」

「福岡おでん」「長崎おでん」も掲載されて、生姜を使う、削り節をかける、ゆず胡椒で食べる、

餃子巻、鶏の手羽先を入れるなどバラエテイに富んでいます。

 

私たちは、アジアモンス-ン地域の「照葉樹林文化圏」、「発酵食品文化圏」に暮らし、

そこでの食の共通性を持ちます。NAFUで、世界の食品と食文化について学びましょう。

 

 

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【第16回】食の東西①

 

フォッサマグナ(中央地溝帯)の西縁が「糸魚川-静岡構造線」です。

食文化論では、「この西縁線あたりを境に西南日本と東北日本の食生活が分かれる」ともいいます。

そこで、これから2回にわたって、「食の東西の違い」を紹介していきます。

 

東のサケ、西のブリ

お正月用の塩魚を「年取り魚」といい、新潟、長野でも東西の違いが見られます。

下越・村上のサケ(塩引き鮭)は絶品ですが、佐渡あたりから西にはブリの立場が強くなるようです。

長野でも、東北信濃は「塩鮭」、松本、伊那、木曽地域では「塩ブリ」と好対照です。

しかし、最近は、加工、流通、貯蔵技術の変化やコ-ルドチェ-ンの発達、

食の国際化のなかで、境目は曖昧になっています。

 

 NAFUでは、食の技術が食文化の変化に及ぼす影響も学びます。

 

牛と馬の違い、肉じゃがの違い

「北馬西牛」という言葉があります。輸送、荷役、耕作を牛、馬のどちらによるのかをいうものです。

奥州の馬は、平安時代から京都に献上され、また、交易の対象でもありました。

関東以北には広大な牧が展開して、馬の放牧、飼育にはこと欠かない一方、

西国ではその役割を牛が担っていたという説です。

明治になって、西洋の食習慣から牛肉を食べるようになったとき、関西では、廃牛が供給源として一般的になり、

牛の少ない関東・東北では、その地位を新規導入の豚が担うことになったのでしょう。

こうして、「肉じゃが」も、関西では「牛肉」、関東以北では「豚肉」がメインになって、

ところによっては、「すき焼き」の肉にも同じ傾向が見られます。

 

牛肉消費量を比較してみると、いまでも、西と東で大きな差があります。

神戸の食肉店では、牛肉に大きなスペ-スが与えられ、豚は肩身が狭いのです。

北海道・池田の「十勝ワイン」の製造は、地元の牛肉をもっと食べるようにと、

当時の町長が始めたと聞きます。

 

 

 

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【第15回】塩の道‐千國街道と三州街道

 

地場調達から商品流通へ

近世になると、瀬戸内などの塩田の発達で、塩は日本海や太平洋回りの船で遠隔地へ輸送されるようになります。

湊に着いた塩は、その後は陸路で奥深い山国に向かいます。そのための専用交通路も整備されてきました。

 

 

 

南下する「北塩・下塩」

越後の糸魚川から信濃の松本に至る<塩の道>は「千國街道」で、

姫川沿いの険しい道では牛・人の背、やがて馬の背に代わります。

長い旅には牛が向いています。1頭で「通し」が効く、エサ<飼葉>がいらない牛は、

文字通りの<道草>で足りるからです。

小谷村には、牛と人が同居して泊まる「牛方宿」の地名も残っています。

登山では、「休憩する」ことを「一本立てる」といいますが、塩運びのボッカ(歩荷)が、

狭い山道で「背の重荷(50kg)に荷突棒を噛ませて立ったまま休む」というのが語源です。

 

 

 

もう一つの塩の道

信州に塩を届けるル-トには「千國街道」のほかに、

太平洋側の岡崎→足助→飯田→塩尻「三州街道」があります。

塩の旅の終点だから<塩「尻」>でしょうか。途中の足助では

三河「吉良」と「赤穂」の塩とがブレンドされ小俵に再包装されました(塩直し)。

輸送の利便化、味の調整・安定化、商品価値の向上は、昔からビジネスの基本だったのです。

吉良と赤穂、忠臣蔵の敵同士の塩がブレンドされる、面白いですね。

さて、上杉謙信の塩はどんなル-トで武田信玄に届いたか、推測してみてください。

 

 

 

塩を運ぶのは「にがり」を運ぶこと

純度の低い塩を運ぶことは、保存料「塩」と食品加工用の「にがり」を同時に運ぶことにもなります。

塩漬けにされた北陸の魚が信濃大町など山の町に届けられると、塩から魚を分離して販売し(塩イカ)、

濃塩水に含まれる「にがり」を使ってその地域の大豆を豆腐に製造することができます。

「塩イカの料理」が、遠く離れた北の大町と南の飯田、いずれでも名物なのは、

塩の道と関係が深いからでしょう。

 

 

 

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【第14回】やはり気になる食料自給率 その②

数字から何を読み取るか

 

食料自給率は農業生産、食生活、国の経済の総合力

豊かといわれ、食肉、乳製品、油脂類を多く食べる食生活では

その飼料・原料のトウモロコシ、大豆などを輸入に依存し、その消費ウエイトを大きくし、

自給率を低める方向に働きます。

農産物を輸入できる経済力が、食料自給率を下げることにもなるのです。

経済力が弱くて食料を輸入できない国々では、たとえ栄養不足になっても

国産の農産物・食料だけで生活せざるを得ません。その結果、食料自給率は100%に近くなります。

FAOが発表している「穀物自給率」では、ネパ-ル、バングラデシュが97%と

日本の穀物自給率28%をはるかに上回っています。

 

食料自給率が高かったころ

農水省の試算では、1960年のカロリ-ベ-ス総合食料自給率は79%でした。

高度経済成長が始まったばかりで食生活水準がまだ低かったときの数字です。

アメリカで「日本型の食生活が望ましい」と紹介されたのは1977年で、

日本の自給率は50%程度でした。(現在はカロリ-38%)

食生活も経済力も貧弱だった時代の食料自給率と比較してみても

これが幸せな姿なのかどうか考えさせられます。

最も望ましいのは、「国内生産力は高く、輸入もできる経済力もある」で、「高ければよい」ではなく、

健康的な食生活も考えつつ、国産、輸入・輸出と多角的に見ることです。

 

穀物消費量(一人当たり)

食肉、とくに飼料効率の悪い牛肉を多く消費する国、油脂を多く消費する国は、

その飼料・原料が穀物ですから、一人当たりの消費量も大きくなります。

アメリカが1066kg、中国が308kg、これに対し日本は246kg、牛肉を食べないインドは181kgですから、

こう見ると、人口が増えたら直ちに食料が足らなくなるともいえません。

食生活のあり方も関係していますから、100億人になろうとする世界人口も

工夫次第で養うことができる可能性があります。

(牛肉は、豚肉の2倍、鶏肉の3倍近くの穀物が必要です)

 

食料自給「力」

最近では、「食料自給力」という表現も「食料農業農村基本計画」などでは使われています。

「耕作放棄地の回復、河川敷やゴルフ場の農場化などで穀物やイモ類などカロリ-の高いものを生産する、

さらには、一つの農地を表・裏2回使う二毛作を盛んにして生産量を増やすことで

どの程度の栄養水準を賄えるか」という安全保障上の計算です。

(2013年のFAOの調査では、一人一日当たりのカロリ-摂取量は、豪州が3768Kcal、

アメリカが3682Kcalに対し、日本は1800~2000Kcalとなっています)

 

このように、<食料自給率>の数字やレベルには、それぞれの意味や意義があるので、

そこを十分理解して将来の農業生産や食生活を考えていくことが大事です。

NAFUでは国内外の農業・食料を取り巻く自給率や経済の流れを

「食・農・ビジネス」の幅広い視点からとらえる力を身に付けていきます。

 

 

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【第13回】やはり気になる食料自給率 その①

いろいろなタイプの自給率

 

2回にわたって、食料自給率を考えます。

<国内生産 ÷ 国内消費 x 100=%>が計算式ですが、

分子の「国内生産」には輸出に向けられる分も含まれています。

 

品目別自給率

個別の農産物ごとに重量で国内生産比率を計算する分かりやすいものです。

この場合、牛肉、豚肉、鶏肉、乳製品などの畜産物では、

飼料(エサ)が輸入であっても、最終製品が国産なら国内自給にカウントされ

自給率は高くなります。

 

カロリーベース総合食料自給率

この数字の見方には注意を要します。畜産では、輸入飼料穀物を多く使うので、

畜産物がいくら国産でも、原料に当たる飼料が輸入だと、

その分はカロリ-換算で差し引かれます。

豚肉1kgを生産するためには輸入のトウモロコシ7kg、牛肉1kgでは11kgが必要で、

畜産物の国内生産が増加するほどカロリ-ベ-スの自給率は下がってしまうという弱点を抱えています。

また、野菜や果実には、カロリ-が少ししかないので、自給率向上には貢献できません。

「カロリ-ベ-ス自給率」は、昭和40年の73%から、平成28年の38%になりました。

数字には、食生活が豊かになるのに従って下がったという背景があることも考えましょう。

海外では、あまり使われない自給率です。

 

生産額ベ-ス総合食料自給率

国内生産の総額と輸入の総額を比較して計算します。

しかし、こちらも「為替レ-トの変動」などで換算数字が動くことがあります。

小さな変化だけを見て、過剰な反応をしない方がよいかも知れません。

(昭和40年86%→平成28年68%)

 

飼料自給率

家畜は草で育てるのが生理上は望ましいのですが、国土の狭い日本では

食生活の向上テンポに草地・飼料畑の規模が追いつかないので、輸入の飼料に大きく依存しています。

牧草と穀物では飼養効率が異なりますので、

可消化養分総量(TDN)に換算して国産と輸入を比べて計算されます。

これは、食肉、乳製品などの「真の」自給力を示しているといっても差し支えないでしょう。

(昭和40年55%→平成28年27%)

 

穀物自給率

輸入が途絶える・制約される、経済的にも買えないときには、

国内生産だけで食生活の水準を維持することになるので、

カロリ-の基本である穀物(米、麦、大豆)の自給率があまりにも低いことが心配です。

先進国では、常日頃から穀物自給率を高く維持する政策、例えば、輸出を予備の供給源とし、

いざのときには国内に回すことも可能な政策を採用しています。

豪州、カナダ、アメリカなどの広大な農地面積の国々は当然100%を超え、

フランスは173%、ドイツ、英国、ロシア、中国もほぼ100%です。

これに比べて、日本の数字28%は、農地面積だけでなく、

農業政策の違いが数字に表れているような気がします。

(昭和40年62%→平成28年28%、米などの主要食用穀物では59%)

 

 

 

*次回は「やはり気になる食料自給率 その② 数字から何を読み取るか」です。(渡辺 こうめい)

 

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【第12回】有機農業について考える

 

「有機農業」の始まり

農業生産を高めるために有機物を肥料として投入するのは江戸時代からごく自然のことでしたが、

科学的、哲学的に系統だてたのは、一楽照雄さんで、1971年ごろのことでした。

「経済の領域を超えた価値を有する、豊かな地力と多様な生態系に支えられた土壌から生み出される

本来あるべき農業のあり方」と提唱したのです。

 

有機農業推進法

10年ほど前にできたこの法律では、有機農業の「定義」を

<化学的に合成された肥料、農薬を使用しない、遺伝子組み換え技術を利用しないことを基本に、

農業生産から環境への負荷をできる限り低減した農業>といっています。

これを規格化した有機JASには、「有機農産物」と「特別栽培農産物」の2つの基準があります。

 

なぜ有機農業なのか

農業生産の母体は「土壌」です。気の遠くなるような長い時間をかけて動植物の遺体(有機物)が

蓄積されていまの豊かな土壌があるのですが、雨の多い日本では、

微粒子や養分が洗い出されてしまう弱点を持っています。

土から抜け出したものを直接に補う必要が出てきます。

ブルガリアのヨ-グルトも、かつては海で、隆起した草原の土・草には魚類や海藻由来の養分が含まれ、

乳牛が育つと聞いたことはないですか。

 

なにを目指しているのか

有機農業を研究する方々は、①安全・良質、②自然・環境、③地力・地域、④生物多様性、

⑤生産者・消費者の連携、⑥農の価値などといいます。

自分の経験でも、長野県安曇野の自宅のすぐ前の畑(水田)では、

加工用のトマトを「無農薬」「無肥料」で3年連作するのを見ましたが、順調のようでした。

そして、生産方法にこだわる消費者の方々と連携し、商品向け収穫の後には、

最後に残ったトマトをみな引き受けていました。

家庭でピュレ-などにしてビンに詰め、冷凍・冷蔵保管して料理に使うのだそうです。

注意することは どんな成分がどのくらい足らないのかの「土壌分析」から始めます。

また、有機物は、「発酵すれば益、腐敗をすれば害」ですから、たい肥づくりには慎重を要します。

加えて大事なことは「濃度」と「必要量」で、<過ぎたるは及ばざるがごとし>です。

 

NAFUの稲作実習でも、一般的な「慣行栽培」と「有機農法による栽培」を体験します。

 

*次回は「やはり気になる食料自給率 その①いろいろなタイプの自給率」です。(渡辺 こうめい)

 

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【第11回】アメリカ映画に見る食料・農業

 

「閑話休題」第6回の学長コラム(GMO)で映画「キングコ-ン」を取り上げましたが、

それに因んで、アメリカ映画に登場する食料・農業の姿を取り上げたいと思います。

 

怒りの葡萄(1940年 ヘンリー・フォンダ主演)

1920年代の経済不況、農業不況(農産物価格低落、砂嵐災害)に見舞われた中西部から

西海岸へ移住の旅ですが、砂嵐(Dust Bowl)は、単なる自然災害でなく、

背景には、農業の機械化・集約大規模化、資本主義化があります。

トラクタ-の発明・普及は、抜本的に生産性を向上させましたが、

同時に、農地の過度深耕、堆肥など栄養分不足、土壌流出と農村地域での過剰就業を招きました。

実際にも、アメリカのミシシッピ川もテキサス・オクラホマの「レッドリバ-」も、

日本とは違って赤く濁っています。機械化、技術化には、損なわれるマイナス点を補う視点が大事です。

 

機械化と農業、戦争との関係は、「トラクタ-の世界史」(藤原辰史)が参考になります。

 

エデンの東(1955年 ジェームス・デイーン主演)

1917年当時のカリフォルニア・サリナスを舞台とし、主題は、父と息子、

兄と弟の人間関係ですが、父親の栽培するレタスが重要な役割を果たしています。

父親に疎外されていると感じた次男のキャルは、自らの存在価値を認めさせようと一攫千金を夢見て、

カリフォルニアのレタスを冷凍保存し、貨車で東部に輸送しますが、

途中での雪崩により通行不能、腐らせて大損をします。

コ-ルド・チェ-ンが整備されていないころの生鮮食料品の流通とマ-ケットの関係を通し、

農産物は、ただ作ればよいのではなく、届いて・使われてこそが最終使命であると分かります。

 

目撃者(1985年 ハリソン・フォード主演)

アメリカ社会、とくに農村の多様性を知ることができる傑作だと思います。

正式名は、たぶん「刑事ジョンブックの目撃者」(Witness)で、

空港トイレで殺人犯を目撃したア-ミッシュの少年と母親を守るため、

ア-ミッシの村に入る刑事、追いかける犯人は身内ともいえる警察官であることから話は複雑になります。

この物語では、16世紀のオランダ、スイスに発し、

迫害から逃れてアメリカに移住してきたドイツ系住民の伝統的な生活、

石油由来のものは使わない、有機農法での農業生産、すべてを住民共同で行う生き方が見事に描かれます。

ペンシルバニア州ランカスタ-地域などが有名ですが、いまでも各地にア-ミッシュの村があります。

自動車道でゆうゆうと1頭立ての馬車を操り、衣服も木綿、麻などの天然繊維、

色は白と黒、ボタンは貝というスタイル、農場は、人力、馬力が中心で動かす姿を見たとき、

人間の生き方を拘束しないアメリカの多様性を強く感じました。

英語では、<It’s OK,Not me!>と表現します。

 

他にも、農業更生局に差し押えられたアイオアの農場の競売を地域コミュニテイ全体で阻止する映画

「カントリー」(1984年 ジェシカ・ラング主演)も印象深いものがありました。

 

映画を入り口に食料・農業分野における問題を考えてみるのも良いきっかけになります。

 

*次回は、「有機農業について考える」です。      (渡辺こうめい)

 

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